研究領域

桑根皮エキス配合育毛剤の男性型脱毛症（AGA）に対する効果

　男性ホルモンは、脱毛の起因物質と知られており、毛乳頭細胞に作用すると種々の伝達物質を産生させます。なかでもTGF-β*1やBDNF*2は，毛髪を作り出す皮膚の器官である毛包の退縮を引き起こすことが知られています。
ここでは男性型脱毛症に関わるこれらの脱毛因子に対する桑根皮エキスの抑制作用について確認し、独自の桑根皮エキスを開発した経緯について説明します。

　通常市場品として入手できる桑の根皮は，周皮を取り去った桑白皮です（Fig. 1）。野村らは，桑の根皮に含まれているプレニルフラボン類（kuwanon E, kuwanon H, morusin）に5α-reductase阻害作用があること，その活性成分は桑の根皮の周皮に多く含まれていること，桑白皮よりも周皮を伴った桑根皮の方が育毛剤の素材として有用であることを報告しています（Table 1, Fig. 2）。
　そこで，この両者について，男性ホルモンに由来する脱毛因子に対する阻害作用を指標として，ELISA法を応用した受容体結合試験を用いて比較を行いました。
　試験には，桑根皮および桑白皮をエタノール溶液で抽出し，医薬部外品原料規格に適合したエキスを用い，それぞれのTGF-β1受容体結合阻害活性*3およびBDNF受容体結合阻害活性*4を確認しました。
　TGF-β1については，その受容体であるTGFR type II (R&D, recombinant human sRII/Fc chimera)をELISAプレートにコーティングし，TGF-β1と各エキスを競合的に作用させました。さらにTGF-β type II受容体に結合したTGF-β1の量をビオチン結合抗TGF-β1 (R&D)抗体とアビジン結合ペルオキシダーゼ(Sigma)を用いて定量することで，各エキスのTGF-β1受容体結合阻害作用を評価しました。BDNFについても同様に，その受容体であるTrkBをELISAプレートにコーティングし，BDNFと各エキスを競合的に作用させ，TrkBに結合したBDNFの量をビオチン結合抗BDNF抗体(R&D)とアビジン結合ペルオキシダーゼを用いて定量することでBDNF受容体結合阻害作用を評価しました。
　TGF-β1およびBDNFに対する各エキスの阻害作用について，それぞれFig. 3，4に示しました。
　桑根皮エキスは，0.2mg/mLの濃度で添加することによって，TGF-β1とTGF-β受容体との結合を阻害する活性を示しましたが，同濃度の桑白皮エキスは顕著な活性を示さなかったことから，桑根皮エキスの阻害活性は桑白皮エキスよりも強力であることが確認されました。
　また，Fig. 4に各エキスによるBDNFとBDNF受容体（TrｋB）との結合阻害活性を示しました。本阻害活性も，桑根皮エキスの方が桑白皮エキスよりも強い傾向にあることを確認しました。以上の結果より，活性成分は桑根皮に多く含まれ，その作用は毛包の退縮を誘導する因子のひとつであるBDNFの受容体への結合を阻害することによるものであることが示唆されました。
　これらの事実に基づいて化粧品原料規格の範囲内で独自の桑根皮エキスを開発しました。桑根皮エキスと市販のクワエキスを3D-HPLC分析によって活性成分含量を比較したところ，桑根皮エキスに，より多くの活性成分が含まれていることが明らかとなりました。

Fig. 1　桑の根について
桑根皮 ： 今回使用した桑の根皮で，周皮を取り去っていないもの
桑白皮 ： 流通している桑の根皮で通常，周皮を取り去ったもの。

Fig. 2 桑根皮，桑白皮エキス中の5-reductase阻害活性成分含量

Fig. 3 桑根皮エキスのTGF-1受容体結合阻害作用

Fig. 4 桑根皮エキスのBDNF受容体結合阻害作用　

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ヒトフォトトリコグラム試験による生薬育毛剤の評価 － 桑根皮エキス配合育毛剤について－：ニュースリリース2014年