株式会社バスクリン(本社:東京都千代田区 社長:三枚堂正悟)は、広島大学大学院医系科学研究科皮膚科 秀道広教授との共同研究により、アトピー性皮膚患者に対するタンニン酸の作用について検討を重ねてきました。このたび、アトピー性皮膚炎患者が「タンニン酸を配合した入浴剤」を2週間使用することで、かゆみ改善に有効であることをランダム化二重盲検クロスオーバー試験にて確認できました。本成果については、2020年第3号の日本皮膚免疫アレルギー学会欧文学会誌(JCIA)に掲載されるとともに、広島大学からもニュースリリースされました(2021.2.26)。

https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/63120

【背景と結果】
従来よりアトピー性皮膚炎の患者に対しては、清浄作用、保湿作用、抗炎症作用等を主特長とする入浴剤で効果検証を行ってきました*1~6。さらに、熱い湯への入浴や強い洗浄摩擦を避ける等、入浴時に注意を払う必要があることを示してきました。本研究では、汗の中に含まれる抗原に着目し、「タンニン酸配合入浴剤」を使用することで、アトピー性皮膚炎の患者のQOLを高める日常的なスキンケアについて検討しました。
アトピー性皮膚炎の特徴として、顔や肘の内側、膝の裏側など、汗をかきやすい、あるいは汗がたまりやすいところに症状が現れやすいことが知られています。これは、汗中の抗原がアトピー性皮膚炎に対する悪化因子として作用し、即時型アレルギー反応を起こすことによるものと考えられます。そのため、生薬や植物成分の中から、汗中の抗原を中和させる成分を探索したところ、生薬の五倍子(ごばいし)から得られるタンニン酸に優れた効果が有ることを見出しました。タンニン酸が皮膚表面に吸着し、汗中の抗原を中和することで皮膚マスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制し、かゆみを軽減させることが期待できます。
入浴剤は、全身の皮膚に対して容易に有効な成分を作用させることができます。これまでの研究では、炭酸水素ナトリウム、ホホバ油、甘草、生薬エキス(トウキ・センキュウ・ハッカ・ハマボウフウ・チンピ・カミツレ)、べにふうき茶を配合する入浴剤のアトピー性皮膚炎患者に対する有効性を示してきました。このたび、汗中の抗原を「タンニン酸」で中和させるという新たなメカニズムにより、アトピー性皮膚炎の症状が改善することを確認するため、「タンニン酸を配合した入浴剤」と「タンニン酸を配合しない入浴剤」によるクロスオーバー二重盲検試験で実施しました。その結果、「タンニン酸配合入浴剤」使用時は、「タンニン酸を配合しない入浴剤」使用時に比べ、軽症から中等症の患者の夜間におけるかゆみの有意な低下を認めました。また、「タンニン酸配合入浴剤」使用後のアトピー性皮膚炎の症状は、改善15例、不変5例、悪化1例で、症状スコアの有意な低下(改善)を示しました。詳細は、広島大学リリース(2021.2.26)をご参照ください。

【入浴剤開発の経緯】

  1. 生薬、植物成分のスクリーニング:
    汗中の抗原を中和させる成分として、生薬成分の中から「タンニン酸」を見出しました*7
  2. タンニン酸の効果検証:
    スプレーローションおよび湯上り剤を用い、「タンニン酸」を皮膚に塗布することで、かゆみを軽減することを確認しました*8
  3. タンニン酸の吸着試験:
    入浴剤に「タンニン酸」を配合した際、浴後でも皮膚上に「タンニン酸」が吸着することを確認しました*7
  4. 入浴剤による効果検証:
    アトピー性皮膚炎患者を対象に「タンニン酸配合入浴剤」を使用し、かゆみ抑制を確認しました*9
  5. 製品化の検討:
    「タンニン酸」を入浴剤中に安定に保ち、安心して使用できるための技術を開発しました。

【まとめ】
従来のアトピー性皮膚炎に対する入浴剤の知見としては、洗浄、保湿、抗炎症、抗アレルギー等の作用によりかゆみを軽減することが分かってきており、洗浄時の擦すりすぎによる刺激を避けるなどの注意を促してきました。アトピー性皮膚炎患者においては、汗をかき過ぎない、汗をかいたら洗い流す等の対策が行われています。そのため入浴時には、過度の発汗と刺激を伴う高温浴は避ける必要がありますが、入浴自体は皮膚を清潔に保ち、有効成分を全身に直接作用させる絶好の機会でもあります。
「タンニン酸配合入浴剤」の使用により、日常の入浴を通して手軽にアトピー性皮膚炎のかゆみを抑制することができれば、掻きむしりによる皮膚のダメージが抑えられ、薬剤の治療効果が高まるとともに、アトピー性皮膚炎患者のQOLを少しでも高めることが期待できます。


株式会社バスクリンは「健康は、進化する。」をスローガンに、お客様の健やかで心地よい生活の提供を目指してまいります。

【参考文献】
*1:六郷正和 他:入浴剤「バスクリン」のアトピー性皮膚炎治療に及ぼす影響についての検討.皮膚科紀要 1987;82(5):641-643.
*2:上原正巳 他:アトピー性皮膚炎におけるクールバスクリンの使用経験.皮膚科紀要 1989;84(4):587-592.
*3:関太輔 他:アトピー性皮膚炎患者に対する甘草抽出エキス配合浴用剤の効果.FRAGRANCE JOURNAL 1993;10:92-97.
*4:関太輔 他:乾燥性皮膚疾患に対する生薬入浴剤バスハーブの有効性・安全性の検討.FRAGRANCE JOURNAL 1995;9:78-84.
*5:渡辺靖 他:皮膚乾燥症状に対する「バスクリンソフレハーブの香り」の有用性評価.西日本皮膚科 2003;65(3):277-281.
*6:木谷敏之 他:アトピー性皮膚炎のかゆみを改善するべにふうき茶エキスを配合した入浴剤の研究開発.FRAGRANCE JOURNAL 2010;5:64-69.
*7:鈴木茂 他:アトピー性皮膚炎に対するタンニン酸のスキンケア剤への活用.月刊バイオインダストリー.シーエムシー出版.2019;36(11):19-29.
*8:信藤肇 他:アトピー性皮膚炎に対するタンニン酸配合湯上り製剤およびスプレー剤の臨床的有用性の検討.アレルギー 2011;60(1):33-42.
*9:Shunsuke Takahagi.et al: Randomized double-blind cross-over trial of bath additive containing tannic acid in patients with atopic dermatitis. J Cutan Immunol Allergy 2020;3:56-61.