温泉街に近づくと感じることの多い、硫黄の匂い。「温泉に来た」と実感できる瞬間ではないでしょうか?「温泉の匂い」というと、硫黄の匂いが代表的ですが、実は硫黄以外の匂いを持つ温泉もあります。硫黄ほど強い匂いがする温泉は少なく、ほとんどの温泉は「無臭」ですが、意識して嗅いでみると、温泉に含まれる成分に由来する匂いを、かすかに感じることもあります。今回は、温泉の匂いについて紹介します。

温泉の代表的な匂い

硫黄の匂い

花火の火薬の匂いや、卵が腐ったような匂いなどに例えられます。温泉の代表的な匂いで、温泉成分に含まれる硫化水素に由来します。硫化水素はごく微量でも独特の匂いが発生し、大量の水(お湯)に溶かしたとしてもなかなか匂いが薄まらず、拡散されることで匂いが強く残る性質をもっています。温泉によって匂いの強弱はありますが、一般的に白濁が強い温泉などは硫黄泉が多く、匂いも強いようです。

鉄サビの匂い

お湯の色が赤色や茶褐色の場合や、お湯の出口やタイルが赤色に変色している温泉は、鉄分を含んでいることが多く、鉄サビのような匂いを感じることがあります。硫黄ほどではありませんが、鉄も含まれる量が少なくても色や匂いに特長が出やすいため、比較的わかりやすいタイプの温泉です。

タールの匂い

ゴムや皮、アスファルト、タイヤの匂いなどに例えられます。温泉が地下の堆積物を通過する際に、堆積物の匂いが付着したものと考えられています。
直接的な匂いというよりは、「タールのニュアンスがある」という程度の匂いのため、注意深く意識しないと感じとれない場合もあります。

番外編 その他ユニークな匂い

ミネラル感のある匂い

鰹節や昆布などから抽出した出汁のような匂いに例えられます。山間部の温泉に多く、植物などの堆積物の影響を受けていると考えられます。非常に繊細で感じとるのが難しく、匂いというより「まろやかな印象を受ける」という感覚ともいわれます。

ヨウ素の匂い

ヨードチンキのような匂いに例えられます。温泉の湯色は薄い赤色やオレンジ色などが多く、匂いも消毒薬のような温泉です。全国的に非常に珍しい温泉です。

塩の匂い

海水のような匂いに例えられます。海の近くで、塩化物を多く含んだ温泉に多く見られます。温泉そのものの匂いもありますが、潮風など周囲の環境で感じられる要素もあります。

温泉の匂いには、「硫黄」や「鉄サビ」のようにわかりやすいものと、番外編の「ミネラル」や「塩」のように、温泉の印象や周囲の雰囲気と重なり合って感じるものがあります。
温泉を訪ねた際は、じっくりとお湯の匂いを嗅いでみてください。温泉の印象がさらに深まり、新しい温泉の楽しみ方ができるかもしれません。

参考文献 阿岸祐幸:温泉の百科事典、丸善出版、2012