研究領域

炭酸ガス浴の有効性

　炭酸泉の成分である炭酸ガスは、経皮的に吸収され、血管拡張作用、血流増加作用を示すことが知られています。また、血流等、循環が良くなることで、疲労回復、冷えの改善などが期待されています。
　今回は、炭酸入浴剤のしくみ、炭酸ガス浴の血流増加効果、保温持続、肩こり、腰痛、冷え症、むくみへの影響について解説します。

炭酸入浴剤のしくみ

　炭酸ガスを家庭の浴槽で発生させるには、有機酸（フマル酸、コハク酸等のジカルボン酸を用いるのが一般的）と炭酸塩（炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム　等）の反応により発生します。
炭酸ガスの発生する仕組み
　R(COOH)2 + 2NaHCO3 → R(COONa)2 + 2H2O + 2CO2↑

　また、お湯に溶け込みやすくするため、有機酸と炭酸塩を圧縮造粒（打錠・ブリケッティング）した固形剤（錠剤・ブリケット）の剤型が一般的です。
　炭酸ガスはお湯に溶け込んだ後に効果が得られるため、ほとんどの炭酸入浴剤は溶けてからの入浴を推奨しています。炭酸ガスがお湯に溶け込み、血流を増加させることで、保温効果などが得られます。

血流増加作用

　炭酸ガスの前腕部の部分浴（39℃10分入浴　硫酸マグネシウム炭酸ガス浴　30ｇ、90g、150g /200Ｌ）により検討した結果、濃度に依存して皮膚血流が増加しました。
　全身入浴（39℃10分全身入浴　硫酸マグネシウム炭酸ガス浴　30ｇ/200Ｌ）による生体への影響については、手腕部の末梢皮膚血流は、さら湯浴と比較して、有意に高い数値を示しました。

炭酸ガス含有無機塩浴の効果．日本温泉気候物理医学会誌69(3)．2006

保温持続作用

　全身入浴（39℃10分全身入浴　硫酸マグネシウム炭酸ガス浴　30ｇ/200Ｌ）による生体への影響については、皮膚深部温は、さら湯浴と比較して、有意に高い数値を示しました。

炭酸ガス含有無機塩浴の効果．日本温泉気候物理医学会誌69(3)．2006

冷え症への影

　冷え症は、手足などの末梢部位や腰部などに冷えを感じる症状であり、血行が悪いことが原因です。入浴による温浴作用は、冷え症の緩和に期待できます。
　冷え症自覚者を対象に、40℃10分間の全身浴入浴条件で、さら湯入浴時と食塩含有炭酸ガス浴用剤浴の1回浴および15日連続入浴により、冷え症自覚者の症状を緩和するかについて評価しました。　
　その結果、食塩含有炭酸ガス浴用剤入浴は、さら湯浴と比較して、全身温感、血行促進、足温感、足の冷えについて良好な結果がみられました。このことから、食塩含有炭酸ガス浴用剤入浴では、温熱効果により血液循環が促され、「冷え症」の緩和に効果的であったと考えられます。また、15日間の連続した食塩含有炭酸ガス浴用剤入浴により、肩こり、腰痛などの
　主観的感覚で緩和（主観的感覚の合計点　15日間入浴）し、下肢の冷え緩和、下肢末梢皮膚血流増加効果が示されたこと（浴用剤の冷え緩和効果、血流増加効果）から、継続使用がより有用であると考えられます。

まとめ

　日常実感する「冷え症」の緩和に、食塩含有炭酸ガス浴用剤使用が効果的であると考えられます。また、温熱効果のあるミネラル成分を含有し、浴湯中で炭酸ガスを発生する浴用剤にも同様な効果が期待できると考えられます。
食塩含有人工炭酸泉浴の各種症状に及ぼす治療効果について：ニュースリリース2008年

腰痛、肩こりへの影響

　肩こりは、肩周辺の筋肉が緊張し、血行不良により生じます。また、慢性的な腰痛の場合は腰部を温めることで、筋肉の柔軟化し痛みを和らげることができます。さらに、軽い柔軟体操を併用することで症状を緩和することができます。
　健常者を対象に、さら湯入浴、硫酸マグネシウム含有炭酸ガス浴用剤を使用し、入浴と浴中の柔軟体操を行い、筋肉の柔軟性や身体の柔軟性について検討を行いました。
　入浴条件は41℃10分間の全身浴とし、浴中の柔軟体操は、肩すぼめ、躯幹の回旋、下肢の伸展挙上（各10回）行いました。硫酸マグネシウム含有炭酸ガス浴、さら湯浴、入浴なしで柔軟体操のみ3条件で、筋硬度、身体前屈、皮膚深部温、皮膚血流、自覚症　等を測定しました。

自覚症
　入浴群は、入浴無し群と比べ、筋肉の緊張、疲労感、肩こり、腰痛、関節の動かしやすさ、身体の軽快感、リラックス感について、自覚症の改善がみられました。硫酸マグネシウム含有炭酸ガス浴用剤浴は、さら湯浴と比較して、腰痛を除くすべての項目でより改善がみられました。

まとめ

　硫酸マグネシウム含有炭酸ガス浴用剤浴と柔軟体操を組み合わせた入浴方法は、筋肉の柔軟性を増し、肩こり、腰痛等にも効果的であることが示唆され、筋肉の緊張、疲労感、関節の動かしやすさ、身体の軽快感、リラックス感等の自覚症改善がみられ、生活習慣病の一次予防として、健康維持にとっても有用であると考えられます。
入浴と浴中の柔軟体操が筋硬度や身体の柔軟性、アディポネクチンに与える影響について：ニュースリリース2009年

　炭酸ガス入浴での有効性に関して、血流増加作用、保温持続作用など多くの報告があります。今後も、人々の健康に寄与できる様々な可能性、エビデンスを取得し快適なバスライフを提供できますよう研究を継続し、有用な情報発信に努めてまいります。

高強度運動の合間の「メントール配合炭酸ガス配合入浴剤」入浴がパフォーマンスを向上させる：ニュースリリース2021年
無機塩含有炭酸ガス浴がトップアスリートの疲労回復に及ぼす影響：ニュースリリース2013年
足のむくみに対する硫酸マグネシウム含有炭酸ガス入浴の有効性を客観的に実証：ニュースリリース2008年