研究領域

温泉ミネラルの有効性

　温泉中の溶存イオン、ガス体については、ナトリウムイオン（Na+）、カリウムイオン（K+）、重炭酸イオン（HCO3-）、硫酸イオン（SO42-）、二酸化炭素（CO2）、硫化水素（H2S）等は、経皮吸収される事が知られています。この経皮吸収については、 ナトリウムイオン（Na+）、 硫酸イオン（SO42-）は、水溶液が親油性になるほど、また二酸化炭素（CO2）、ラドン（Rn）等は親水性になるほど経皮吸収が大きいとされています。　そもそも浴用剤は、このような温泉の医学的効用に基づいた一種の水治療法の効果を期待するものです。
　今回は、芒硝泉の硫酸ナトリウム、重曹泉の炭酸水素ナトリウム、正苦味泉の硫酸マグネシウム、塩化物泉の塩化ナトリウム、明礬泉の明礬に関するエビデンスについて解説を行います。

　温泉分析表には以下の５つに分類される成分が掲載されています
（１）陽イオン　　ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなど
（２）陰イオン　　炭酸水素イオン、硫酸イオン、塩化物イオンなど
（３）非解離成分　メタケイ酸、メタホウ酸など
（４）溶存ガス　　遊離二酸化炭素、遊離硫化水素
（５）その他微量成分　総ヒ素、カドミウムなど
　温泉ミネラルと言われる成分は（１）陽イオンと（２）陰イオンに相当する成分であり、入浴剤では有効成分として利用されています。硫酸ナトリウム（芒硝泉由来成分）、炭酸水素ナトリウム（重曹泉由来成分）、塩化ナトリウム（食塩泉由来成分）などであり、温熱効果や清浄効果があります。

硫酸ナトリウム

　芒硝泉の成分である硫酸ナトリウムの入浴効果(41℃5分全身入浴)について、さら湯浴との比較で検討した結果、保温持続、血流増加作用が認められました。

　浴剤の保温性に関する研究（第１報）．日本香粧品科学会誌,6(3)：175-180．1982

炭酸水素ナトリウム

　重曹泉の成分である炭酸水素ナトリウムの入浴効果（41℃5分入浴）について、さら湯浴との比較で検討した結果、清浄効果が認められました。
　炭酸水素ナトリウムを30ｇ、60ｇ、90ｇ/200Ｌ濃度で浴湯中に均一に溶解したものと、さら湯浴を比較して、炭酸水素ナトリウムの清浄効果について、セブメーター法（油分測定法）を用いた検討を行いました。その結果、清浄作用については、浴前値に比較して浴後は、人工皮脂量が平均値で減少する結果が得られました。炭酸水素ナトリウム30 g浴、60 g浴、90ｇ浴群においては、さら湯浴の人工皮脂量に比して、1％危険率で有意な減少が見られました。

浴用剤の皮膚への効果.フレグランスジャーナル，1993-2：25-29.1993

硫酸マグネシウム

　正苦味泉の成分である硫酸マグネシウムの入浴効果（40℃10分間全身入浴）について、さら湯浴との比較で検討した結果、保温効果、血流増加効果が認められました。

硫酸マグネシウム浴の血流増加効果

硫酸マグネシウム浴の保温効果

全身水浴による心機能動態、第28回日本生気象学会総会誌：65、1991．

塩化ナトリウム

　塩化物泉の成分である塩化ナトリウムの入浴効果(41℃5分全身入浴)について、さら湯浴との比較で検討した結果、保温効果、血流増加効果が認められました。

浴剤の保温性に関する研究（第１報）．日本香粧品科学会誌,6(3)：175-180．1982

硫酸アルミニウムカリウム

　明礬泉の成分として、硫酸アルミニウムカリウムがあります。化粧品では、収れん効果を目的として、化粧水などの引き締め成分として知られています。
　硫酸アルミニウムカリウムは、乾燥硫酸アルミニウムカリウム（焼ミョウバン）、硫酸アルミニウムカリウム水和物（ミョウバン）として日本薬局方にも収載されており、口腔粘膜・皮膚の炎症または潰瘍の収れん・止血、止汗等に使われています（第17改正　日本薬局方解説書）。
　皮膚乾燥自覚者に対して、人工明礬・炭酸泉の単回浴（40℃10分間全身浴）および連浴（40℃10分間全身浴）は、皮膚の血流量を増加させることによって、皮膚のしっとり感、皮膚のかゆみ、肌荒れ感の自覚症状を改善する可能性が示唆されました。
　以上より、日常実感する「皮膚乾燥」等、自覚症状の緩和に、人工明礬・炭酸泉の使用が効果的であると考えられます。

VAS(皮膚のしっとり感)の変化	VAS(肌荒れ感)の変化

乾燥皮膚に対する人工明礬・炭酸泉浴の影響についての検討、日本温泉気候物理医学会50、2010.

　硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸アルミニウムカリウム、など温泉ミネラルの入浴での有効性に関して、血流増加作用、保温持続作用、清浄作用など多くの報告がありますが、人々の健康に寄与できる様々な可能性、エビデンスを取得し快適なバスライフを提供できますよう研究を継続し、有用な情報発信に努めてまいります。