
名湯案内 和歌山県 龍神温泉
紀伊山地の山々に囲まれた山里の温泉郷
紀伊半島の西側、和歌山県を流れる日高川を地図でさかのぼると、まさに龍のようにうねりながら東へ東へと、半島の中央の紀伊山地の中へと潜り込んでいきます。
その上流、奈良県との県境に近い山里に龍神温泉があります。ここは高野竜神国定公園の中心部で、山深い紀州の自然をたっぷりと味わうことができるところで す。また、北に高野山、護摩壇山(ごまだんざん)、東南には熊野の瀞八丁(どろはっちょう)、那智の滝などがあり、これら古くからの信仰の地を巡る熊野古 道へとつながる場所に位置しています。
▲紀伊半島の外周をぐるっと回る紀勢本線の特急くろしお号。
▲南紀白浜空港に近い紀勢本線の白浜駅。
仙境の風光明媚な場所であるだけに、かつての龍神温泉は、その名はよく知られていながら交通の便が良いとはいえず、半島の外周を走る紀勢本線の紀伊田辺や南部(みなべ)からは3時間以上かけてたどり着いたものでした。
しかし、現在ではこれらの場所からはバスでも1時間20分ほどですし、マイカーなら大阪松原ICからでも2時間半ほどで到着します。南紀白浜空港を利用することで、東京方面からも行きやすくなりました。
▲日高川の清流をさかのぼるようにして、龍神温泉に入っていく。
▲龍神温泉の温泉街。いちばん手前にあるのが龍神温泉元湯。
歴史と伝説を感じる
▲川に沿っていくつかの旅館が並ぶ。
龍神温泉の開湯の歴史は、7世紀頃の修験道の開祖とされる役の行者小角(えんのぎょうじゃ おづの)と、その後の8世紀から9世紀に活躍した弘法大師空海にさかのぼるといわれています。
伝説では、この地に温泉を発見したのが、役の行者小角。そして空海が、夢に現れた難陀龍王(なんだりゅうおう)のお告げによって、この温泉を開発したとされています。龍神温泉の名は、難陀龍王が龍の神様であるところからきています。
▲江戸時代の風情をそのまま残している上御殿
日高川もこのあたりは、山の中に険しく切り込んだ渓谷となっていて、役の行者がこのあたりの山中で修行をしている時に、湧き出す湯を見つけたとしても不思議ではない気がします。そして、この山中で湯治をさせることで弘法大師が人々を救ったということも、あったのかもしれません。
江戸時代になると、紀州藩の初代藩主である徳川頼宣が湯治のための宿として上御殿と下御殿を作らせたほど、名湯として知られていたようです。
湯の手触りがツルンとした重曹泉
温泉街の一角にある公共浴場の龍神温泉元湯に入ってみました。日高川を眼下にのぞむ真新しく大きな建物です。大浴場と露天風呂があり、源泉掛け流しで、お湯は毎日入れ換えているとのこと。
源泉の温度は48℃、泉質はナトリウム-炭酸水素塩泉の重曹泉で、ラジウムの放射線量が豊富とされています。無色透明で、においはありません。
湯の中で手をもむと、湯がヌルヌル、ツルンとし、肌がきれいになる感じがします。お湯に刺激はまったくなく、初めは少し熱い気がしますが、入っているとじわじわと温まってきます。出てからしばらくすると、一気に汗が吹き出してくるほどです。
▲龍神温泉元湯は朝7時から夜9時まで営業しており、立ち寄りで入浴する人も多い。
▲元湯の大浴場。窓の外には日高川の渓谷が広がる。
浴用の適応症としては、神経痛、筋肉痛、関節痛、うちみ、慢性消化器病、痔疾、冷え症、切り傷、火傷、慢性皮膚病、疲労回復などがあげられ、飲用の適応症としては、慢性消化器病、糖尿病、痛風、肝臓病などがあげられています。
元湯は、朝7時から夜9時まで営業しているので、宿泊客はもちろん、旅行の途中で立ち寄る人も多いようです。また、ここの源泉は、周囲のいくつかの宿泊施設にも供給されています。
▲檜の浴槽にあふれる源泉掛け流しの豊富な湯。
▲元湯の露天風呂から眺める山里の風景は心を落ち着かせてくれる。
群馬県の川中温泉、島根県の湯の川温泉と並んで日本三美人の湯といわれる龍神温泉。この名湯を求めて今では全国から人がやって来ます。
(取材:岩間靖典)
- 電車
- ●JR紀勢本線 紀伊田辺駅より
龍神バス約1時間20分 龍神温泉
- 車
- ●大阪松原ICから
有田IC、国道424号、425号、371号経由 約2時間30分 龍神温泉 - ●名古屋から
奈良、高野山経由 約5時間10分 龍神温泉 - ●南紀白浜空港から
国道311号経由 約1時間20分 龍神温泉
飛行機
●関西国際空港から
JR関西国際空港線、紀勢本線経由 紀伊田辺駅より龍神バス 約1時間20分 龍神温泉
●南紀白浜空港から
JR白浜駅経由、紀伊田辺駅より龍神バス 約1時間20分 龍神温泉
ひとことコラム
かつては温泉旅行というと、家族旅行以外では、職場の慰安旅行など大勢で楽しむもので、大宴会をともなった場合も多かったものです。それがもうだいぶ前か ら様子が変わってきました。そうした旅行ももちろん楽しいのですが、現在では、仲の良い友人らと少人数でゆっくりと入浴を楽しむ形が多く見られます。暴飲 暴食はせずに、ゆったりと時間を使って、心身を癒すのです。名湯といわれる温泉でそんな時間を過ごして、健康を保つ機会をたくさん持ちたいものです。